第6章 夏至祭
再び一王様が櫓の上に上がられた。
祭祀役が恭しく差し出したのは金の盆に載せられた…………あの夜姫様がネコさんに使っていたのと同じモノ?だ。
象牙製で大きさもだいたい一緒だがこちらのは「持ち手」に繊細な細工が施されている。
一王様がお手に取ると壺に残っていた香油がモノ全体に掛けられた。
祭祀役が茅乃に挿さっている細い棒の束を一気に引き抜いた。
ジュルッ………
その刺激に茅乃は目を覚ましたのか縛られた脚先をピクピクと痙攣させた。
次の瞬間、カッと目を見開いた。完全に覚醒したらしく、バタバタとカラダを揺すり始めた。
「まずいわね。もう少しだったのに。」
「……ネコの時の様に順調に進まないな。」
いつの間にか五王様が桟敷に戻ってきていた。
「ネコは本当にイイ子だったわね、泣きも喚きもしないで。」
姫様はネコの頭をベール越しに撫でた。
お酒が回っているのかネコさんは人目も憚らず姫様に躰を擦り寄せている。
「おかげでネコの年は豊作だったな。
この儀式には国の安泰が賭かっているから失敗は出来ない。」
(……っ!とは言われても……)
祭祀役二人が茅乃の両太腿を押さえつけ、何とか下半身だけでも動かない様にする。
もう一人の祭祀役か一王様を促した。
一王様は軽く頷くと、手にされていたモノを茅乃に一気に差挿れた!
茅乃は咥えさせられていた小枝の束を吐き飛ばして、悲鳴とも泣き声ともつかない大きな声を上げた。
掻き鳴らされる銅鑼。
観衆一同が立ち上がり、一斉に盃を掲げた。
「女王ばんざい!」
「太陽王ばんさい!」
城の庭は歓声と盃を合わせる音の渦に包まれ、茅乃の叫び声は掻き消された。
口を押さえてこの場を走りさろうとする沙良の姿が目に入った。慌てて後を追う取巻きたち。
祭祀役の手で茅乃から引き抜かれたモノは赤い血を纏っていた。
拘束を解かれた四肢を抱えられ、櫓を降ろされるがその目は宙を泳ぎ、絶え間なく獣の様な叫び声を上げ続けている茅乃。
「あーあ、あれは完全に気をおかしくしてしまったね。」
「すぐに正気に戻ってくれるといいが………」
暴れて脚の間から鮮血をあたりに撒き散らしながら、茅乃は奥へ下げられて行った。
女王――――茅乃が去った後、大きな花火が上がり賑やかな音楽が奏でられ、祭りは最高潮となった。