第5章 蛍の化身
「小雨んなったし俺また鍛錬してくるわ!」
ナンは何かを振り切る様に武道場へと駆け出していった。
その後ろ姿を見送った姫様と五王様は顔を見合わせてやれやれといった様に肩をすくませた。
―――――――武道場。
霧雨の中、前髪から水を滴らせながら一心に弓を射るナン。
さきほどから放つ矢は的を掠めてばかりだ。
「………集中出来てないらしいな。」
いつの間にか五王様も武道場にやって来ており、柱にもたれて弟の身の入らない鍛錬を眺めていた。
「うるさいなっ!」
ナンは兄に一瞥も与えずまた矢をつがえる。
放たれた矢は的のだいぶ手前に落ちた。
「………っくしょ……」
ナンは口の中で呟くと五王様に向き直った。
「あの子にちょっかい出すなよ!五兄。」
「何をそんなにムキになってるんだ?賭けはお前が勝って終わったろ。俺の負けで弓を新調してやったろうが。」
「……っ!そうじゃねえんだ!あいつはネズは………」
ナンはそこまで言って言葉に詰まった。
顔は金時芋の様に真っ赤だ。
五王様はその様子に思わず吹き出す。
「何が可笑しいのさ!」
「悪い悪い。つい笑ってしまった。
よし!こうしよう!また賭けをしないか?」
「…………今度はナニを賭けるのさ。」
「あの娘の『蕾』を奪った者が勝ちだ。」
「…………な!?」
ナンの顔がますます紅潮した。
「どうだ?」
「む、無理矢理は駄目だぞ!」
「当然だ。あの娘が自らカラダを開いてあの清らかな蕾を差し出された者が勝ちだ。」
「………分かった。負けねえからな。」
「せいぜい頑張れ。」
再び強くなった雨の中、兄弟はがっちり拳を合わせた。