第4章 蕾酒
「あの……七王さ…」
「ナンでいい!」
強い口調で私の呼び掛けは遮られた。
「確かに俺は帝の七番目の息子だ。
でもここではナンだ。いつもの様に呼んでよ、ナンって。」
例のまっすぐな瞳で射られて私はたじろぐ。
――――(そういえば今朝は彼の稽古姿を見てなかったな。いろいろあったからな……)
「……ナン…。」
激しい動揺は高まるばかりだったが、頑張ってさりげなく声をかけた。
「何?どうした?」
いつもと変わらない優しい声が返ってきた。
「その………昨夜あのお酒飲んだ……の?」
ナンは一瞬戸惑った。頭の中に昨夜の私の痴態が蘇ったのか!?
ところがナンは極めて普通に答えた。
「いや、飲んでないよ。」
「えっ!?」
「俺は温い酒は嫌いなんだ。熱いかうんと冷たいのがいい。」
私が見せられたお酒は向こうが見えないほど湯気が上がっていたのに?!
怪訝な顔をしている私にナンはカラダを寄せてきた。
(!)
「酒は飲まなかったけど………ネズの蕾、すごく綺麗だった。俺だけのものにしたくなった……」
すぐ耳元でそう言われて私の爪先から頭のてっぺんまで熱が昇った。
(これは薬湯のせいじゃないよね…………)
「……じゃ、俺そろそろ行くか!」
ナンは急に恥ずかしくなったのか、立て掛けていた弓を持って足早に部屋を出て行った。
チラリと見えた耳たぶが真っ赤だった。