第1章 波乱の予感
「少し急いでくれよ!」
案内のお役人さんが首だけ後ろを向いて私らに叫んだ。
………ピチャピチャピチャ
柔らかい赤土の道は俄雨を纏ってぬかるみを増してきた。
村を出てから3日、ずっと良いお天気に恵まれていたのにもう少しでお城って時に俄雨に降られてしまった。
私の国では15才になった女の子は「婢女」としてお城のお妃様にお仕えすることが出来る。
「預り金」がもらえるから両親のいない私は育ててくれたおばあちゃんの為にもずっとお城に上がるって決めていた。
昨年やっと15才になったからこうして村に迎えに来たお役人さんに連れられ、お城へと向かっている。
ガラガラガラ……
どんどんお城が近くなるにつれて忙しく行き交う荷馬車が増えてきた。
(本当に大きなお城なんだろな。)
「ちょっとお!あんたがこっち側歩いてよ!
馬車にドロはねられちゃうじゃない!」
村からお城に向かっているのは私一人じゃなかった。
同じ集落だった「沙良」だ。
読み書きを教わるお寺でも一緒で、何かと私と張り合ってくる娘だった。
沙良は両親もちゃんといて広い畑を持っていて何不自由ない暮らしをしているのに、わざわざ婢女などにならなくても良いのに。
それに私と違って目鼻立ちのはっきりした、いわゆる「美少女」で既にいくつかお嫁入りの話も来ていたというウワサだ。
なのに何でか私がお城に上がると聞いた途端、泣く両親を説得して一緒について来てしまった。
ホント良く分からない。
バシャシャッ!!
車道側に場所を替わった途端に、スピードを上げて上って来た荷馬車に頭からドロをかけられてしまった。
「あははははは!ホントあんたってついてないわよねえ!」
ドロだらけの私を指差して嘲笑する沙良。
得意の右の口角だけ吊り上げる笑い方で。
沙良が私を見下す時は決まってこの笑い方をする。
「お前たち!さっさと歩かないと遅れるぞ!」
お役人さんに大きな声をかけられた。
「はあーい!………ほらあ、遅れたらあんたのせいだからね!」
道中ずっとこの調子だ。
(お城では沙良と別のお妃様にお仕え出来るといいなあ…………まあ大丈夫かな?何せお城の後宮には何人ものお妃様がいるんだもの。)
私はプッと口の中に入ってしまったドロを吐き出して、だいぶ先へ行ってしまった二人を追いかけた。