第9章 王立図書館
私は頷いて、再び本の世界に舞い戻った。頑張って半分ほど読み進めた頃、フト何気に隣りを見た。シェラザード様は、本を閉じていて私を見ていた。
「もう読まないのですか?お気に召しませんでした?」
「いや、読み終わった。」
これは所謂、速読が出来ると言うことでしょうか?流石、シェラザード様です。
「違うのを選んでくる。このままここにいてくれ。」
「はい。」
私の額に口付けしてから、本棚の方へ移動された。私は本に視線を戻す。少しして、隣りの席に人が来た。戻って来たのかと目を向ければ、隣りに座っていたのは知らない男性。
「女王蜂様は一人?今日も、殿下を追ってここまで来たのか?ご苦労なことで。」
周りから失笑の声が漏れる。どう見ても、小馬鹿にした物言いだ。読んでいた本を閉じては席を立つ。シェラザード様を探そうとしたのだけど、目の前に立ち塞がれた。
見た目的に年上。どうしよう。この人は私を揶揄う為だけに、声を掛けて来たのだろうか?周りを見回しても、こっちに向けられている視線のどれもが嘲笑のもの。
誰も助けてくれそうにない。やがて、私に向けられて手が伸びて来たのだけど、その腕は戻って来たシェラザード様の手で払われた。
「私の婚約者に気安く触れないで貰おうか。」
私を背に隠し、ブリザードを撒き散らすシェラザード様に相手は怯んだ様だった。
「お前、いや、貴方はアシュリー公爵家の・・・。し、失礼致しました。ですが、この者は殿下に恋慕していたのでは?」
「貴方はさぞ一途なのですね。幼い頃の思いが、ずっと続くと勘違いなさるとは。」
今は違うのだと、シェラザード様は言ってくれた。
「まぁ、私の愛らしい婚約者に心を奪われるのは分からなくはないですが、未婚の女性にそう気安く触れるものではありません。他人のものなら猶更です。ご理解頂けましたか?」
「申し訳ありませんでした。」
さっきの嫌な空気は溶けて、相手もシェラザード様の前で小さくなっている。これが、外での身分の差が理由。
「向こうでこちらの様子を伺っている方にも、きちんと説明しておいてください。」
男性は息を飲んでは、足早に去って行った。今、向こうでこちらの様子を伺っている人がいると言った?そう言えば、あの人は殿下のことを言った。
あ、見つけた・・・前回に続き、偶然?それともストーカー?