第5章 王子の中の王子
百歩譲って、ランチはまだ・・・でも、膝枕はどう説明するつもりなの?どう言っても繕える内容じゃないでしょう?
「問題ない。私が言うのだから気にするな。」
「悲しむ人はいないのですか?」
「今の私に婚約者も特別もいない。」
いや、悲しむ人はたくさんいると思いますよ?
「そう言えば、トルン様と呼ぶのだな。」
「えっ?あ、そう言われまして。」
「・・・・・・・・・・・・仕方ないか。妥協しよう。」
トルン様の言う通りだった。あの王子と天秤に掛けた?でも、妥協なんだ。どうして?
「トルン様は、決まった方はいらっしゃるのですか?」
「その内、誰かに決まるだろうが・・・まさか、アメリアはトルン様を狙って?」
「冗談でも止めて下さい。」
そんな事になったら、あの王子と義姉弟になるってことでしょう?嫌だから。絶対に拒否する。
「そうか。」
何故か、声に若干の明るさを感じる。
「お邪魔虫のお陰で、そろそろ時間だな。戻ろう。」
「はい。」
一先ず、魔法壁があるのなら安心・・・なのかな?その魔法壁が、どのように見えるのか私には分からないけれど。
でも、シェラザード様はこんな風に私とお昼の時間を過ごしていいのかな?シェラザード様と一緒に食べたい人はいるだろうに。
例えば・・・あの王子とか?と言っても、兄のものらしいけれど。
顔は似ているけれど、性格は正反対だな。国王になるのは、兄王子の方がいいのかなと思う。
あんな目で令嬢の私を睨むような人が、国王になったら・・・きっと、私の未来なんて真っ黒に塗り潰されそうだもの。
何なら、濡れ衣着せられて・・・あ、想像したら何か寒い。思わず身ぶるいしてしまう。
「冷えるのか?」
「いえ、少し考え事をしていただけです。あ?」
フワリと肩から掛けられたシェラザード様の上着。慌てて返そうとするけれど、断固拒否で受け取ってくれなかった。
こんなことされたら、余計に目立つのに・・・。
教室に戻り、今、シェラザード様の上着は私の膝の上で綺麗に畳まれて乗せている。決して、見せびらかしたいわけではない。
でも、机の上や鞄に入れるとかも選べなかった。大丈夫、動かなければ皺も入らない。