第32章 且つての楽園
窓から見える外は、綺麗な街並みが広がっていた。
「アメリア、おいで。案内しよう。」
両親たちも行っておいでと言ってくれ、私はシェラザード様に手を引かれ外へと出た。
外の風景は、楽園かと思うほどの賑わいだった。
「城壁に魔道具を設置していて、緑が豊かな国になっている。だが、城壁を出ればここは最北端。雪が深く移動も難しい。戦争に負けて、私の先祖は流れてあの国に根を下ろしたんだ。」
「王族はその事を知っているのですか?」
「いや、知らない。私の曽祖父が我武者羅に働いて、今の公爵家を手に入れた。王という立場を投げうって、只管、努力されたらしい。」
お、王?王様だったの?
「明日にも、この国の建国を世に知らせる手筈となっている。どう動くか見物だが、次は国を追われる事にならない様に尽力する。」
「シェラザード様の体調が悪かったのは…この国を興そうとしていたからですか?」
「そうだ。今では、殆どの国民が戻って来た。本当を言えば、卒業してからこの国に来る予定だったのだがな。」
何か、展開が早すぎて頭が付いていかない。シェラザード様は、王族の末裔だったの?
そう大きくはないこの国は、大国に数の暴挙で攻められて戦争に負けた。豊かだと思っていたこの国は、冬は雪深く魔法の力が無ければとても人が住めるところではなかった。
戦争は夏。そして、冬を越せないことを知った大国は、アッサリとこの国を捨てた。100年後の今では、その大国も独立などで小さく国が分かれていった。
今、近隣でこの国を脅かす国はない。
「亡くなった祖父の念願だった。この国を立ち上げる事が。要約、その願いが実った。」
「あっ、領民の人たちは・・・。」
「関わりある者たちは、皆こっちに連れて来た。その住民の取りまとめは、代々カイン家、シュバイツの家がやっている。今頃、忙しくしているだろうな。」
そこで、先程のことを思い出した。
「転移する前に騒がしい声が聞こえた気がしたのですが?」
「逃げられないように、取り押さえるつもりだったのだろうな。だが、この計画をいち早く知らせてくれたのは、アメリアのお父上だ。国を捨ててでもと手助けしてくれていた。」
「そうだったのですか。」
何も知らなかった。ごめんなさい・・・淡泊だって言って。こんなにも侯爵家の両親は、私を大切に思ってくれていたのに。
