第26章 突然の訪問
「いえ、私の事ならお気遣いなく。」
「どれも品質の最上級の宝石を使っております。よくお似合いになると思いますし、美しく着飾れば婚約者様も喜ばれるかと。」
「私の様な小娘には、過ぎたモノです。宝飾以外では、扱っているものはないのですか?」
次に見せてくれたのは、香油の瓶だった。顔には出さないけれど、臭い・・・心の中でそう叫んだ私。
「もういいわ。仕舞ってくださるかしら?」
あ、お母上もこの匂いが苦手なのかな?なんて、呑気に考えていた私だったけれど、表情を見て私は固まった。
獰猛な獣が獲物に狙いを付けているかのような笑みを張りつけていたからだ。バクサーの顔色も変わっていた。
「ねぇ、私を少し甘く見てやしないかしら?それと、アメリアへの贈り物をするときは、我が公爵家を通して下さる?どこぞの誰かの様に、悪さを働こうとする者がいる様だもの。アメリアはもう、公爵家の人間同然なのよ。分かった?」
お母上の目、瞳孔開いてる!!シェラザード様と同じ目をしてる。そんなにこの香りが不快だったのかな?
「あら、お返事は?」
「か、畏まりました。今日のところはこれで、失礼させていただきます。お心に止まる物をご用意出来なくて申し訳ございませんでした。」
「勘違いしないで下さらない?次は、もう無いの。さ、どうぞ、お帰りになって?」
慌てる様に鞄に商品を詰めては、そそくさと帰ってしまったバクサー。本当に持って来たのは、あれだけだったのかな?
「アメリア、大丈夫?気分が悪いとかなってない?」
「えっ?いえ、大丈夫です。」
母子揃って同じようなことを言うな、と思って気付いた。
「あの・・・まさか、あの香り・・・。」
「えぇ、前回より濃度の高い媚薬に使われる成分のものね。本当に私も舐められたものだわ。しっかり、お仕置きしなくちゃね。」
丁度そこへ、シェラザード様が現れた。部屋に入るなり、眉間に皺を寄せている。
「この匂いは・・・。」
「想像通りだったわ。さて、どんなお仕置きにしましょうかねぇ?」
美人過ぎて怖い。何、この微笑み。
「父上は、ミスツ家に取引きを止めさせるみたいです。」
「あら、そうなの。でも、それだけじゃあね?アメリアのこと、しっかり貴方が守るのよ?あぁ言う自尊心の高い者は、往生際が悪いって決まっているのだから。」