第1章 1 初音ミクの回想
「はい、KAITO、MEIKOは初音ミクよりも先に出ているんですよ。」
「そ、そうだったんですね…。
じゃ、じゃあ、あの、えっと、」
(どうせ、鏡音の方を買うんでしょう?)
初音ミクは、わかりきっていると言うような、冷めた顔をしていた。
どうせ、私なんか。
どうせ、どうせ。
期待をしても、無駄なだけだ。
(…でも…)
選ばれるのがこんな人だったら、と。
初音ミクは考えざるを得なかった。
この客は、きっと、「自分の代わりに歌ってくれる、便利な機械」ではなく、「VOCALOIDのために作った曲をVOCALOIDに歌ってもらうためのVOCALOID」として、あるいは「1人の推し」として初音ミクを見ているのだろうと。
期待の交じった思考を、初音ミクはどこかに抱えていた。
「初音ミクを、買っても、いいですか?」
(…?!)
「わかりました、初音ミクですね。
よ、っと」
店員は、商品棚から初音ミクを取り出して、レジに運んだ。
瞬間、暗く染まっていた初音ミクの視界は明るく弾けた。
(…眩しい)
今までは、一緒に商品棚に並んでいた仲間たちをただみているだけだった。
けれど、今は違う。
今、初音ミクは見送られているのだ。
「お会計は〜」
「あ、はい、えっと…」
耳から入ってくる情報など、今の初音ミクにはどうでもよかった。
ただただ、これから起こりうるであろう未来に期待を抱いていた。
(私も、みんなみたいに…)
ふと初音ミクが思い出したのは、初音ミクが出荷される前、工場主が見せてくれた動画だった。
今までに出荷されてきた初音ミクの歌声は、とても綺麗だった。
(所詮私は人間の真似事。
でも…)
(‥歌いたい。)