第4章 Backtrack
「でも、一体誰が伊織さんを…」
「さあな。
末端の俺にはそれすらわかんねぇよ。
手元に置きたくて探しているのか、殺したくて探しているのかも、な。
俺たちは少し焦ってんだぜ?
もう少しで捕まりそうだった人が急に行方をくらまして。
絶対に気づかないように追っていたのに。」
…実際、伊織さんは気づいていなかった。
伊織さんが帰国してからのこの2年間、彼女が捕まらずにいられたのは、もしかすると、、、
いつも彼女の傍らに控える彼…松野千冬が守っていたのかもしれない。
「オマエを線路に落としたのは、俺だ」
「え?」
「っ、」
伊織さんのことに思考を巡らせていて、2人の会話を聞いていなかった。
どういう流れかは知らないが、急にそんな千堂の言葉が聞こえた。
あの日の犯人が千堂だと…
…何故だ?先程の会話を聞く限り、タケミチくんを殺す理由がない…!!
千堂の言葉は止まらない
そしてついに、タケミチくんが過去に戻れる可能性にすら気づいた
でも、そんなことを気にする余裕はタケミチくんにはない
彼だって、千堂が自分を突き落としたという事実を信じられないんだ
「アッくんが俺を殺す訳がない!!!
俺の友達だ!!」
「…」
「…」
イヤカフにタケミチくんの嗚咽が響き、千堂は何も言わない
…信じ難いが、その沈黙こそが答えだ
「タケミチ…
いつからこうなっちまったんだろう?」
沈黙を破ったのは、千堂の震える声だった
…彼もまた、前の彼とは変わってしまった人
「俺は今や稀咲の兵隊だ」
「稀咲って…"稀咲鉄太"?」
「東卍の奴らはみんな稀咲の言いなり
マイキーくんなんてもう何年も会ってない…」
稀咲鉄太…
「アッくん、今からでも遅くねえよ。
東卍なんてやめちまえよ」
「ハハッ…無理だよ」
千堂はひどく渇き切った声で笑う
それは全てを諦めた人の声だった
「怖えんだよ
ただひたすらに、稀咲が…」