第4章 Backtrack
「伊織さん、大丈夫ですか?」
『うん…ごめんね、千冬くん
思わず手が出ちゃった』
「いえ、伊織さんがやらなかったら俺がやってました
…アイツ、ふざけたこと言いやがって」
千冬くんもイライラが隠せてない
…それもそうだ
万次郎は悪くない
『…あの頃は、本当に楽しかったね』
「はい」
『私ね、けんちゃんが死んで、あの頃の記憶に蓋をしてたの
初めはただ、辛かったから
でも、時間が経つにつれて、思い出さないんじゃなくて、いつのまにか思い出せなくなっていった』
「…」
『正直、タイムリープする前は万次郎の顔も声も、けんちゃんのエマを見つめる瞳の色も、ほとんど覚えてなかったの』
「…」
『…でも、向こうで2人の背中を見たらね、頭の中に楽しかった記憶も、辛い記憶も、全部流れ込んできた
私ね、ずっと後悔してたんだと思う
…けんちゃんが危ないとき、どうして側に居なかったんだろうって
どうして何もできなかったんだろうって』
「…伊織さん」
夕日に向かって吹く風が、12年前とは違う、短い髪を撫でる
『だからね、私決めた!
なんでかはわからないけど、あの頃をもう一度やり直せるチャンスが巡ってきた
失ったものを取り戻せるチャンスが私の手の中にあるの!
だから千冬くん、力を貸して?
次のタイムリープまでの2日で、調べたいことがある』
私が彼の方を振り向くと、千冬くんはあの頃のような、少しギラついた目をして答えた
「勿論
付き合いますよ、どこまでも
今は伊織さんが僕の隊長ですから」
『ふふ、ありがとう!』
そう言って2人で顔を合わせて笑うと、一緒に私の家に向かった
…