第17章 Last chance
熱を吐き出すように大きく息を吐く
万次郎は私とは対照的に穏やかに、静かに言葉を紡いでいく
「エマの本当の兄貴なんだって。
俺はそいつの事全然知らねえんだけど、なんかシンイチローはちょこちょこ会いに行ってたらしいんだ。
んで、俺そいつにすげー恨まれてんの。」
『…ぇ?』
一瞬、呼吸が止まる
その刹那覚えている限りの記憶をフル回転させるも、思い当たるものはない
真兄とイザナが…?
…それは…初めて知った…
エマからイザナという兄がいることは聞いていた
けど…もう10年も会っていないと言うし、関わりなんていまさらないと思っていた
私の記憶の中のイザナの情報はたったふたつ
エマの兄であること
…絶対に許せない人間であること
それだけ
「でも…なんか伊織には会いたがってたらしい。」
『…』
「なんか心当たり、ある?」
私に…?
未来では同じ組織にいた以上、それなりに交流はあった
いつか必ず一矢報いるとは思いつつ、腹の中に隠した熱を悟られぬよう、上手く立ち回ってきた
でも…今はそんな関わりなんてない
イザナの名前も私は知らなかったはず
私はその場で首を横に振る
「そっか…」
『…』
見えてなんかいないはずなのに、万次郎はそう返事をする
「…伊織がこうやって部屋篭ってるのは初めてだけど、俺なんとなく伊織の考えてること分かるよ。」
『…』
…分かるわけない
私だってわかってないんだ…
どうしたらいいかわからない…
いや、分からないんじゃない
何も…何もしたくない
耐えられない…
私のそんな思いを他所に、万次郎はまた口を開く
「伊織、怖いんだろ?」
『…?』
「いつも自分に自信があって、正しいことをできるから…分からないことがあると怖くなる。
自信がなくなって怖いから動けなくなる。
…違う?」
万次郎の発した言葉が自分とは正反対のもので、でもどこか納得している自分もいて
私の時間は一瞬、止まった