第17章 Last chance
コンコンコン
「伊織、俺。
開けなくていいから。ここきてよ。」
『…』
あの頃よりも少し高い大好きな声
身体に引っかかってた布団が床にだらしなく落ちるのも気にせず、玄関の扉の方へ勝手に足が進む
扉のドアノブに手をかけ、チェーンと鍵に触れる
嗚呼、だめだ…
このままこの扉を開けて彼の腕の中に飛び込んでしまいたい
彼の胸の中で声を上げて泣きたい
私より遥かに暖かい手で私を包んでほしい
でも…
震えている手を見ないふりをしてスッと手を下ろす
迷いを断ち切るようにその場に背を向けて扉に体重を預けてずるずると座り込む
厚い扉越しに、万次郎も同じように背を向けているのがわかる
…これでいい…このままでいい…
油断すると彼の元へ走り出してしまいそうな脚に爪を立て、波打つ心臓を宥める
私が落ち着いたことを知ってか知らずか、万次郎の声が少しくぐもって聞こえてきた
「…黒川イザナって知ってる?」
『っ!』
思わぬ人物の名前に目の前が真っ赤に染まる
たった今沈めた感情が堰を切ったように押し寄せてくる
血が逆流しているようだ
アイツらだけは許さない…
アイツと稀咲だけは許せなかった…だから…!!
もうどうしてこんなにもアイツを恨んでいるのか思い出せないけれど…何度歴史を繰り返そうと、あの2人だけは排除する…!
私が…この手で…!!!
誰にも渡しはしない…!
『フゥーッ、フゥーッ』
この汚い感情が万次郎にまで伝わってしまわないように自分で自分を制する
体の至る所の筋肉に力が入り痙攣する
身体が熱い