第17章 Last chance
生きてる…
撃たれたはずの肩も腹も胸も穴なんかひとつもなくて、血も一滴も付いてない
クスリも使っていないまだ純粋な身体は随分と綺麗で、自分の記憶との齟齬に吐き気がしてくる
『…』
あの時…撃たれて倒れたとき…万次郎が居たんだ
少し哀しそうな顔をしていたけど、万次郎が私の顔を両手で包んでくれてて、すごく温かかった
頑張ったなって、労わるようにおでこを合わせてくれた
声が出ていたのかどうかも怪しいけれど、大好きって言ったら笑ってくれたんだ
何年も見てなかったあの優しい笑顔で、私だけに見せてくれるあの表情で、俺もって言ってくれたんだ…
…もう、あのまま死なせてくれればよかったのに
なんて、最低なワガママ
重くのしかかるどうしても消化しきれない感情
全てをあの時に置いてきて何も残っていない自分
私はもう、死んだんだよ…
これからまた生きていくなんて、考えられない
もう私の生は終わったんだよ、
だからといって今の状況じゃどうすることもできなくて、最善なのは誰にも関わらずここにいる事
…ただそれだけ
昨日も今日も明日もずっと、ここでこうしてじっとしているんだ
無害な植物のように
誰もが素通りするような道端の草のように
辺りの環境に身を任せ、時が経つのをひたすらに待つ
未来に帰ったら、その時はきっと、未来の私は死んでいるから…それまでの辛抱
若すぎて体力の有り余るこの身体は眠ることも満足にできないようだ
ぼんやりとベッドの上で手足を投げ出す
…玄関の向こうに人の気配がした