第16章 Murderers
「まぁそれは俺もそう思うんだけど…
伊織さんとマイキーくんの組み合わせがまずいんじゃなくて、稀咲がいないことが問題なんじゃないかって思って…」
「でもそれはそれで稀咲がマイキーくんに必要だったってことだろ?」
「うん…まぁ多少はそうだったんじゃないかなぁ、と」
「あのクズやろうが…?」
千冬は苛立った様子でシャワーを捻りシャンプーを流していく
まぁ千冬からしたら場地くんを嵌めた張本人な訳だし…許せない気持ちもわかる
「おそらく前の未来では稀咲が東卍の闇の全てだった。
伊織さん、稀咲を追放する時に言ってたろ?『闇を生まないために私がいる』って。
なんらかの拍子に伊織さんが処理しきれないほどの闇が生まれて、マイキーくん共々飲まれちまった…とか考えられねえかな?」
「うーん…」
千冬はシャワーの蛇口を閉めると、考えるように一瞬目を閉じた
「…確かに…稀咲なら何か知ってるかもしれないな…
でも、稀咲に会うのはどっちにしても危険だ。
…ダメ元かもしれねえけど…やっぱりまずは伊織さんに話を聞く方が先だと思う。」
「だな…明日にでも訪ねてみよう。」
俺も泡まみれの頭を流すと、雨と泥で汚れた体もさっぱりしてきて胸が軽くなった気がした
…伊織さん…心配だな…
目の前であっくんが死んだことも、ヒナを失ったこともあるけれど、とても慣れるようなものじゃない
その時の気持ちは理解できるけど、俺は人を殺めたことは一度もない
元々医者で命の重みなんて嫌というほど体感してきた伊織さんがそんなの耐えられると思う方がおかしい
でも…やり直せるんだ
まだ終わっていないんだ
だからどうか前を向いて欲しい
俺の口から言ったところで響くのかはわからないけど、諦めない気持ちをどうにか取り戻して欲しいと、そう思った