第16章 Murderers
「コイツらはお前を逃そうとしたらしい。
でもお前は自分の足で戻ってきた。」
『…』
「…何のために戻った?」
俺がそう言うと、その場の空気がシンと静まり返る
聞こえているはずのあたりの音まで消えたように張り詰めた空気の中、伊織の高く芯のある声がその中に針を刺した
『…万次郎の側にいるため。
それだけよ。』
「…」
『これからもずっと、貴方の側にあるためだけに、私はここにいる。
それ以外に理由なんてないわ。』
「…そうか」
伊織は俺の言葉を聞くと少しだけ表情を緩め、その言葉通り、ずっと俺の隣にあり続けた
───
──
─
「それじゃあ俺は…ドラケンくん達に庇われて伊織さんに…
っ!伊織さん!伊織さんは!?」
「伊織?
…何日か前から意識を飛ばしたままだ。
今はそこに寝かせてる。」
「え…っ!?伊織さん!!」
マイキーくんが視線で少し後ろを示すと、彼がさっきまで座っていたあたりの瓦礫の影に伊織さんは寝かされていた
見えている右の首筋には前にはなかった龍のタトゥー、そして右頬に水滴が伝っている
あれは…涙…?
「…いつだったか…嗚呼そうだ。
最後に三ツ谷を殺した日だ…急にパニックを起こしてそれからずっとその調子だ。
右目だけから涙を流し続けてずっと意識がない。」
「…え!!?」
マイキーくんは指先で伊織さんの右目の雫を拭いながらそう呟く
それより…今なんて…?
「殺した…?」
「…タケミっち。
あの頃の東卍はもういない。
アイツらはみんな…みんな、俺たちが殺した。」
「は、」
「…だから頼む…お前が終わらせてくれ。」
マイキーくんは最後に伊織さんの頬を一度撫でると、何かを俺に向けて投げて立ち上がった
「俺を殺せ。
…伊織が起きる前に。」
「は…?」
マイキーくんは自分の羽織っていた上着を伊織さんに掛けてゆっくりと俺に近づく
足元に転がったモノ…マイキーくんが投げて寄越した拳銃と彼を交互に見ながら、俺は必死にマイキーくんの言葉を理解しようとした