第15章 Merry X'mas
それきりマイキーくんは口を開くことはなかった
…マイキーくんはわかってるんだ
このままじゃ自分がおかしくなっちまうって…
自分が深い闇を抱えてるって…
伊織さんは…どうなんだろう…?
そこからまたしばらく走ると、人気のない公園のそばにマイキーくんはバイクを停めて歩き出した
俺もその後ろをゆっくりと追う
「…兄貴は暴走族のトップだったくせに喧嘩が弱かった。」
「……えぇっ!?嘘!!?」
「ホント」
「えぇ!!めっちゃ意外なんスけど!!
マイキーくんのお兄さんが!?」
「ハハ」
いや、マジ笑い事じゃない
無敵のマイキーくんのお兄さんだぞ?同じ遺伝子じゃん?
「…兄貴の周りにはみんなが集まってきた。
東京中の不良が自分よりも弱い兄貴を慕った。」
「…」
「一回聞いてみたことがあるんだ。
【シンイチローは喧嘩も弱いし女のケツばっか追いかけてるしオナラも臭いのになんで男にモテるんだ?】って」
「…お兄さん、なんて?」
「笑って【お前にはまだわかんねーよ】って
…伊織もあの頃は兄貴に惚れてた。」
「初恋…でしたっけ」
「うん」
血のハロウィンの前、マイキーくんのお兄さんの墓地で聞いた話を思い出す
実兄だったマイキーくんももちろんのこと、そんな風に慕っていた伊織さんにとっても、マイキーくんのお兄さんの死は心に深い傷を残したはずだ
しかもその頃2人はまだ子供だ
…深いどころの話でない
「東京中の猛者達を先導する兄貴はいつでもキラッキラに輝いてた。」
マイキーくんは階段をゆっくり登りながらそう続ける
「あの人が後ろにいるから負けねえ。
みんなきっとそう思ってた。」
「マイキーくんみたいッスね!!」
「…おれは…」
「え?」
「…いや、なんでもねえ。」
何か言った気がしたけど、マイキーくんはそこで一度言葉を切り、振り返って俺の瞳を見つめた