第15章 Merry X'mas
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「真一郎!!万次郎!!エマ!!
お前らは今日から兄妹だ!!」
「え?」
「外人じゃねぇの?コイツ
エマって変な名前」
ゴッ!!
「いってー!!」
「仲良くしろよオマエら!!!」
「ハハ、マンジローは女心がわかってねぇなぁ
…よし、エマ!
兄ちゃんがどっか連れてってやる!イケメンだからって惚れんなよ?」
「…変な髪型」
「え?」
「ー!」
「ーー!!!」
「ー!!」
佐野家に預けられた初日
これから始まる日々が不安でしかなかった
果たしてこの家で自分の居所は見つけられるのだろうか
…きっともう迎えは来ない
ここで過ごすしか自分には選択肢がないのだと、幼いながらにそう感じた
「エイ!」
「エイ!」
…佐野家は空手の道場だった
聞こえてくる声に引かれるように壁から顔を出して様子を盗み見る
「圭介ぇ
お前ガキのくせに体幹ぶれねーな」
「真一郎くん!!」
「バカッ!デケェ声だすなよ!」
「真一郎!!」
「やべっ」
「ったく…アイツは悪さばかりしてろくに道場に顔出さん…
圭介!お前はああなるなよ!」
「押忍…」
ケースケ…
ここ数日で覚えた数少ない名前のひとつだ
話の端々からマンジローと呼ばれる子と同学年らしい
ダダン!
トッ
ダン!!
「ほっ」
軽く地面を蹴ったはずなのに、跳び上がる高さは大人の頭ほどに達し、その高さから正確に蹴り出される蹴りは子供のものとは思えない音を立てる
…すごい…
「先生!アイツはなんで練習しねえのにあんなにすげーの?」
「あれは天才!」
「じゃあアイツは!?
いっつもずーっとそこで見てるだけじゃん!!」
ケースケはそう言いながら部屋の隅の方を指差す
そちらに釣られるように視線を向けると、真っ黒な瞳と目があった
ずっと、こちらを見ていたみたい
「あれも天才!
伊織!今のマンジローと同じ蹴り、出来るな?」
『…押忍』
女の子だ…
凛としているけれど繊細な声をその場に響かせ、ゆっくりとこちらに歩いてくる
と、途中でタタッと駆け出した
トッ
ダン!!
『っふ!』
同じだ…
さっきの技と全く同じタイミングでの踏み込み
同じ高さ、同じ音の蹴り
初めて見るウチ目線でも完璧だとわかった