第14章 Choice
「別れよう、ヒナ」
「……え?」
まるで何を言われているのか分からない
そんな顔をしているヒナの目を真っ直ぐに見つめ、もう一度、同じ言葉を繰り返す
「別れよう、ヒナ」
「…」
ゆっくりと空から降ってくる白い氷の粒が俺たちの間を唯一隔てる
美しい白綿は時間や重力を持たないように、俺たちとは別世界のもののように、自身の好きなように宙を舞い堕ちる
ヒナはその中の小さな一粒を目で追うように顔を下げると、それに合わせて自然と彼女の持つ傘も向きを変えた
俺たちの間を隔てるものが、ひとつ増えた
彼女の顔が見えなくなったのを良いことに、俺は更に言葉を紡ぐ
「なんで急に…って思うかもしんないけどずっと考えてた…ってゆーか…
えっと、、、好きな子ができたってゆーか」
「…」
「…」
あれだけ昨日の夜、考えたのに
俺の口から出てくるセリフは全く下手なものばかりで、最初から最後まで格好つかない
ふと、目の前を横切った少し汚れた白い綿を目で追うと、ついに俺の視点も彼女から離れた
また隔たりが増える
そしてさらに今からもうひとつ…
「ヒナを…もう………好きじゃない」
「…」
「そう…他にもう…好きな子がいる
だからもう…」
バチン!!!
「え?」
ゴッ!!!!!
ドサッ…
いつもの喧嘩のように尻餅をついて地面に身体を打ち付ける
ただ、今はいつもの衝撃に加え後頭部にひんやりとした感覚があってゾワリと背筋が震えた
その慣れない感覚のお陰で、今の状況が何よりも早く理解できた
「ちょ!ヒナ…!!」
「バカ!!」
「!」
「バカ!!!バカ!!!!」
「…」
後頭部とは裏腹に頬には温かい雫が触れ、口の中には微かな鉄の味が広がる
泣いている
言わずもがな、頬に触れた温かい雫は彼女の涙で、これが最後に触れる彼女のぬくもりだった
振り下ろされる拳は彼女の語気とは逆に少しだけ柔らかく、こんな俺相手に手加減をしてくれているのが手に取るように分かる