第1章 Blanc
10年前、
「伊織!!」
『!?圭くん!
どうしてここに!?』
卒業して数日
出発日も行き先も、誰にも言わずに一人で空港まで来た
家族の見送りも断って、身一つとキャリーケースひとつだけを持って
でも、どうして?
人一倍鈍くて、中学で留年すると言う快挙まで達成するほどの圭くん
1番気づがないであろう貴方が、どうしてここに来られたの?
「なもん偶々に決まってんだろ!!
お前がデケェカバン引っ張ってタクシー乗ってたから後ろバイクで着けてきたんだよ!!!」
『偶々って、、、』
深く考えたのが馬鹿みたいで、こんな時でも圭くんらしい答えが出てきて、思わずクスリと笑ってしまう
しかも、その服装は学ランで学校に行く途中だったのだろう。
留年してたから私たちよりも学年はひとつ下だもんね
「それよりお前!どこ行くつもりだ!!」
『…ごめんね』
「場所くれぇ教えろよ!!
誰にも言わねぇって約束するから!!!」
『圭くん…』
「俺が聞くだけだ!
マイキーにも三ツ谷にも言わねぇし、後からお前を追いかけることもしねぇ!!!
お前の居場所を知っておきたいだけなんだよ!」
『…』
「そうじゃねぇとよ…俺はどっち向いてお前に話しかけたらいいか、わかんねぇだろうが…!」
『…?』
「俺は馬鹿だからよ、電話くれぇしか連絡方法知らねぇんだ。
…多分お前はもう電話にはでねぇ。
だったらよ、せめてお前のいる方向向いて声上げてねぇと、おかしくなっちまう…」
いつもの豪快な素振りが嘘のように弱々しい声でそう呟く
私はそっと彼の近くに寄り、柵越しに見える綺麗な髪を一房掬い、小さく口を開く
『…アメリカだよ。』
「は!?アメリカって、、外国かよ…』
『そう』
「アメリカって名前は知ってる。
…遠いのか?」
『うん、とっても。』
「どっち向きにあるんだ?」
『今の圭くんから見て…右側、かな。』
「それじゃ移動した時すぐわかんなくなっちまう。」
『…東側って言ってもわかんないよね?』
「ああ。」
『そうね、、、あ、太陽や月が昇る方向。
その向きが東。』
「わかった。毎日そっち向いて話す。」