第14章 Choice
今日は月も出ていなくて、ただひたすらに闇い夜
こんな闇の中で場違いだとも思えるような笑い声を2人で上げた
そしてどちらかともなく笑いを収めて息を整えると、互いの顔からそっと海へと視線を移す
『…こんなに真っ暗で何もないとさ、、、なんだか2人だけの世界になったみたい。』
「そうだな」
『海と空の境目も分からなくて、ただただ暗くて…いつか自分の輪郭もわからなくなって、このまま溶けてしまいそう。』
目を閉じると風と波の音しかしなくて、ただひとつ感じるのは、少しだけ外に出ている肌にチクチクと砂が当たる感覚だけ
私もこのまま砂みたいにバラバラになって風に吹かれて
それから最後は海に落ちてそのまま遠くに流されてしまう
肺いっぱいに潮の香りを取り込むと、身体の中までこの空間に侵食されていくようだ
と、左手の温もりが強く私の手を掴んだ
「…俺がいる。」
『?』
「俺とこうやって手握ってたら、自分の形、忘れねえだろ?」
『万次郎…』
「それに、海になんかやらねーよ。
お前は俺のモンだ。」
バイクから降りた時からずっと繋ぎ続けていた手
万次郎は私のそれに指を絡めると、さっきよりもさらに強く握った
私も同じようにぎゅっと手を握って口を開く
『じゃあ…万次郎も私のものね!』
「俺も?」
『うん。万次郎も私のもの。
だから海になんてあげない。』
「俺は強いから飛ばされねーし。」
『ふふ、確かにそれもそうね』
「ああ。
2人だけの世界ってのも、特別感あっていいな」
『最高でしょ?』
「最高
…それにさ、俺、ここに来たのにはちゃんと理由あんだ。」
『理由?』
「うん。見せたいものあって。」
万次郎はそう言うけれど、こんなに闇い中、何も見えるものなんてなくて思わず首を傾げる
検討もつかない
万次郎はそんな私を見てクスリと笑うと、口を開いた
「上、見て」