第14章 Choice
『万次郎!!どこまで行くの!!?』
「あとちょっと!!!」
海へ行く
そう聞いていたから、てっきりいつもの海辺の公園か港に行くものだと思っていた
でも、今万次郎の走っている道はいつもとは違う道
…確かに潮の香りはするから海に向かうことには間違いないけど…どこに行くんだろう?
ザザー…
ザザーン…
目的地に到着し、万次郎がバブのエンジンを切ると、波の音が耳に届く
街頭のほとんどない場所で、目が慣れるまでは視界が狭く、万次郎の姿しか見えない
「伊織、こっち」
『万次郎もう見えるの?』
「うん!こっから階段だから気をつけて。
手握ってていいから。」
『ありがとう』
ゆっくりと階段を降りていく
足場が見えなくて少し不安だったけど、万次郎の暖かい手に触れていると怖くはなかった
最後の一段を降りると、靴の底を介して伝わる感覚で自分がどこに立っているのか理解できる
それと同時に少しずつ目が慣れてきて、万次郎の表情も見えるようになってきた
『砂浜…』
「うん。偶には浜の海も良いかなって」
寄せては戻りを繰り返す波
進んでも戻ってもいないように見えて、実は少しづつ動いてる
遠く離れた月と魅きあい、時に反りあう
そしてその足元では小さな命が育まれ、成長し、最後には朽ちていく
ぼんやりとそんなことを想いながら、私は万次郎と共に静かに海岸線を歩く
『なんだか冬に波の音を聞くのって新鮮』
「だな。」
『夏だったらさ、空と海の間は青くて境目がわかんないけど、冬も暗くてわかんないね』
「夏は雲あるしわかるよ。
冬は…っていうか、夜だしな。」
『ふふ、そっか。』
「…夏つったら…俺そういえば前に海来たのに水着忘れたことあったな…」
『え?そんなことある?』
「うん」
『嘘!信じられない!!』
「マジだって!!俺もカバン開けてびっくりしたし
結局そのまま泳いでその日の夜エマから怒られたな〜」
『そりゃ怒るわよ!』
「しかもそのあとさ…」
それから私と万次郎はいろんな思い出話に花を咲かせ、2人とも涙が出るくらい笑った
寒さなんて忘れて、身体がぽかぽかして心地よかった