第14章 Choice
更に数日間、万次郎がくっついて回る事以外は平和な日々が続いた
留学の話を蹴ったこと、そして前回のテストで約束通りフルスコアを叩き出したことで、私は学校の先生からも何も言われなくなっていた
『ねぇ万次郎』
私の一歩先を歩きながらたい焼きを頬張る彼の背中にそう声をかける
私が足を止めたのを気配で察したのか、彼も足を止めてゆっくりと振り返る
「ん?」
『本当の理由教えてよ。』
「…なんのこと?」
『最近の万次郎、やっぱり変だから…
いつもの万次郎ならこんな風に理屈捏ねてくっつき回ったりしない。
…何かあるんでしょう?』
「…」
万次郎は我儘だけど、でも絶対仲間が本気で嫌がることはしない人だ
わざわざ自分から嫌だと言わなくったって、しっかりそれを察せる
…だからこんなことするなんて、絶対何か理由があるはずなんだ
万次郎は手に持っていた最後のひとくちのたい焼きを口に入れると、河原の土手に座る
そして私にも隣に座るように促し、私が座るのを確認すると、彼は立ち上がって私を包むように後ろから座り直した
『…万次郎?』
「…」
体勢的に彼の表情は全くわからない
川辺のススキがサラサラと風に揺れる
「…ごめん」
『…どうしたの…?
別に怒ってるわけじゃないよ?』
「うん…」
そう言いながら万次郎は私の首筋に顔を埋める
髪が耳に当たって少しくすぐったい
「…怖くて、さ」
『怖い?』
「伊織が倒れた時…兄貴みたいに死んじまうんじゃないかって、怖くて…
血のハロウィンで伊織の存在は世に知れたから…
俺ら不良だし…やっぱり伊織は女だからって狙われたらって考えたら…」
『…』
「俺の居ないところでお前が傷つくのはもう、見たくない…」
万次郎はそう言って息を吐く