第14章 Choice
「じゃあまた明日な!伊織!!」
『うん!」
パタン
いつものように、万次郎に家まで送ってもらう
冷えた部屋に扉の閉まる乾いた音が響くと、私はその場に力が抜けたように座り込んだ
『…っ!やった…!!』
これでいい
最初からこうすればよかったんだ…!
留学なんてどうでもいい
キャリアなんて、経験なんて、そんなもの心底どうだっていい…!
実際、そうやって手に入れたこのスキルが私は大嫌いだ
みんなといる事を切り捨ててまで腕を磨きたいだなんて思わない!
ゆっくりと目を閉じ、息を吐く
瞼の裏には集会の時、みんなの前で話した時の景色が鮮明に思い出される
…ずっと注視してた
稀咲…
アイツの表情の変わる様を
…私が留学しないと言った瞬間、みんなが困惑した表情を浮かべる中、アイツは1人眉を寄せた
更に半間が弾かれるように稀咲の方を見、どうするんだと言わんばかりの視線を送っていた
私は静かに稀咲と目を合わせた
…お前の好きにはさせない、と
離脱なんてしてやるか、と
稀咲はその視線を受けると、下から睨みあげるように私に視線を返してきた
─望むところだ
そう言われた気がした
立ち上がって風呂場へ行き、頭から熱いシャワーを被る
シャワーによる熱だけじゃない
体内からふつふつと沸くような熱が脳を支配し、心臓が呼応するように激しく波打つ
…前の世界ではこの年度が終わるまで、稀咲は大したことは起こしてない
さらにタケミっち曰く、私がいるから慎重になった、と
私がいたから作戦を延期した、と。
そんな話も聞いた
…でも、私はもう居なくならない
そんな状況に陥ったなら、必ずアイツは仕掛けてくる
『…上等よ』
来るなら来い
逆に返り討ちにして、そのままお前を東卍から追い出してやる
ここからは私の直接制御
これからが本当の勝負
必ず勝つ
みんなの為、東卍の為に負けるわけにはいかない
これは私の宣戦布告だ