第14章 Choice
『万次郎…』
そう言いながら先程の強い瞳とは似ても似つかないような、ひどく穏やかな眼を目の前の彼に向ける
…どこかその視線には迷いというか…そんなものが混じっているようにも見える
「…」
先程の伊織さんの言葉にすらただ1人微動だにせず、彼女の肩に両手を置いたまま静かに俯くマイキーくん
小柄で前髪が顔に掛かった彼の表情は誰も伺い知ることはできない
『…私が留学辞めた理由はね、』
「…」
伊織さんはマイキーくんの髪を掬いながら言葉を続ける
『…寂しかったの。
…万次郎には言ったわよね。』
「…」
『どうしてもみんなと離れたくなかった。
自分の夢を追うことよりも、ここにいることの方が私にとって大切だった。
…みんなと離れるなんて…想像するだけで苦しくて痛くて…ひどく離れ難くて…どうしても一緒にいたかった。』
「伊織…」
「…」
『…ごめんね、』
伊織さんがそう言うと、全員が同じように顔を歪めた
…伊織さんだけじゃない
きっとみんなそう思っていたんだろう
東卍とか将来とか、考えることは色々あったけど、結局はみんな1番胸の奥にあった気持ちは同じだったんだ
…ただ、離れたくなかっただけ
単純なようで、素直には言葉にできないその胸の内
みんな心当たりがあったからこそ、それぞれの複雑な思いが胸を駆ける
誰より伊織さんと長く過ごし、誰より大切に思ってきたマイキーくん達の胸中を測り知ることなんてとてもできなかった
『…さっきさ、屋上で話した時…万次郎も寂しいって思っててくれて嬉しかった。
決めた後に聞いたから…不安だったの。』
「…」
『ねぇ、万次郎…
私、行かないことに決めたよ…?
喜んではくれない…?』
「…」
そう言う伊織さんの声は少しだけ震えていた
「…」
『…』
「…」
「…」
誰も口を開かず、身じろぎひとつしない
しばらくそんな沈黙が境内中を支配した