第14章 Choice
「…っ、そんなの…!当たり前だろ!」
ガシッ
『!』
万次郎は柵に体を預けて外を眺める私の肩を掴むと、私の身体をぎゅっと抱きすくめた
苦しくて痛いくらいに私を抱き、万次郎の落ち着く香りが鼻腔を駆ける
「俺だって寂しいよ!すげぇ寂しいし離れたくねぇ!!」
『っ、』
「このままずっとこんな時間が続いたらって…みんなでギャーギャー言える時間が永遠だったらって、最近毎日思ってる!
伊織が居なくなって寂しくねぇ訳ねぇよ」
『…万次郎…っ!』
万次郎の言葉に、私も力一杯彼の学ランを掴む
消えてしまわないように、離れてしまわないように、この場所に、自分の腕の中に縛り付けるように
私たちはお互いでお互いの存在を確かめ合うように強く抱きしめ合った
ドクン、ドクン、ドクン
トク、トク、トク、トク
触れ合う身体から2つの鼓動を感じる
その感覚がどうしようもなく心地よくて、私は目を閉じその音に耳を傾けた
どれほどの時間そうしていただろう
赤くなっていた太陽はもう沈み終わりを迎え、残るは三分の一と言ったところ
薄暗くなった屋上で、私たちはどちらかともなく腕を解いた
そのまま両手を取り合いじっと目を合わせると、穏やかな声が鼓膜を震わせる
「…でも、やっぱり伊織は行くべきだ。」
『ぇ…?』
一瞬、言葉の意味が理解できなくて、弾かれたように彼の声の方へと顔を向ける
薄暗く、目が慣れていない中では正確に彼の表情は窺えない
「…もちろん寂しい。
本当は行って欲しくない。でも…伊織の夢は俺たちみんなの夢だから。
伊織の夢を叶えてほしいっていうのも本音だ。」
『…』
「…行ってこい、伊織。
俺も俺の夢を追う、伊織も伊織の夢を追え。
どれだけ離れていても俺はずっとお前のことを想ってる。そして…そしていつかお互いの夢が叶った時、また会おう。」
『万次郎…』
「その時はパーも一虎もみんないて、みんなでお前におかえりって言ってさ、それで飽きるほどいっぱい話すんだ。
…そんな将来を想像してたらさ、俺も頑張れそうな気がする。」
万次郎はそう言って私の手を握る力を少しだけ弱めた