第14章 Choice
「伊織、」
『ん?』
「ちょっと話さね?」
『いいよ、』
「ケンチン先帰ってて!!」
「おー!
今日の集会忘れんなよ!!」
「わかってる!」
テスト終了のチャイムと同時に教室にやってきた万次郎
回答を提出し、担任の先生の視線を受け流しながら彼の元へ駆け寄る
2人で他愛もない会話をしながら階段を登り、立ち入り禁止のテープを乗り越えて屋上に出る
大分日が短くなって、まだ4時半頃だと言うのに赤くなった日を見ながら2人で柵にもたれかかる
「…どうだった?テスト」
『余裕〜
時間余って寝ちゃった』
「ハハ、流石伊織。
昨日も先生たちに啖呵切ったって聞いた。」
『あ、けんちゃん言ったのね?
もう…』
「すげぇな、本当伊織は。」
『そんなことない。』
中学のテストなんて簡単なもの
…こんなので間違えてちゃ医者なんか務まらない
「…留学の件、悩んでんだろ?」
『…』
「行ってこいよ。
別にずっと帰ってこれねえ訳じゃねぇんだし。」
『万次郎…』
「東卍のことも俺たちのことも、なんも心配いらねーよ?
てか俺らも中3だし、お前だけじゃねえ。
少なからず高校行ったら今までのようにはいかないんだ。
なんも気にしねーでやりたいことやれば良いんだよ。」
『…』
「だから行ってこい。
俺たちはずっと待ってるから。
何年先でも何十年先でも、待ってる。俺、こう見えて待つのは結構得意な方なんだ。」
万次郎はそう言って私に向けて笑う
太陽の光が彼の表情を照らし、その柔らかな髪がキラキラと光る
『…正直なこと言っても良い?』
私はそう口を開くと、ゆっくりと身体の向きを変えた
『私さ、本当はどうでもいいんだ。』
「…?何が?」
『…東卍のこととか、そういうの』
「…」
私は視線を太陽の方へ向け、万次郎の視線から逃げるようにオレンジの光を見つめる
『…ただ寂しくてみんなと離れ難くて…
東卍のことや勉強のことなんて考えられないくらいに…』
「伊織…」
彼が私たちの頬を撫で、私達の間を通り抜けた
『…万次郎はさ、私が向こうに行ったら寂しいって、思ってくれる?』
私は万次郎の表情を見るのが怖くて、顔を前に向けたままそう言った