第12章 Hospitalization
「その季節の匂いってどんなのだ?」
俺がマイキーにそう聞くと、隣にいた三ツ谷が驚いたように俺を見上げる
まさか俺が食いつくとは思わなかったんだろう
ただ、少し興味があった
伊織とマイキーはどこか似てる
2人とも独特の感性を持ち、不意にそれを言葉にする
聞いてみたいと思ったんだ
2人の時間の感じ方を
まだ15回しか経験したことのないはずの2人から見た季節のイメージを
三ツ谷の視線に気づかないふりをして、少し前を歩くマイキーの言葉を待つ
「えっとね〜
まず春は暖かい土の匂いがする。
いろんな生き物とか植物が土から出てきて、今まで埋まって見えなかった土が外に出てくるじゃん?
その少し湿ったような、でも色々詰まったような土の匂い。」
「へぇ、思ったより複雑なんだな」
「確かに
…じゃあ夏は?」
「夏は太陽の匂い!
まぁよく言う潮の匂いとかもある意味夏の匂いなんだろうけど、俺の中ではちょっと違う。
夏はカラッとしてて、1番肺にスッと入ってくる空気。
そこら中から太陽の光を受けたものの影響が出て、その匂いが立ち込める。
夏は色々混じって賑やかだけど、その根幹には絶対太陽があるんだ」
潮の匂いとは違う、太陽の匂い…か、
潮の香りは海に行かないとわからないが、マイキーが言いたいのはそういうことじゃなくて、どこにいても季節が感じられる匂いってことなんだろう
…思ったよりちゃんと考えてるんだな
「で、秋は夏の匂いが賑やかだった分、ちょっと寂しく感じる匂い。
木の葉とか花とか、そういうのが枯れて落ちる少し乾いた感じ。
…でも、夜は月の匂いがする。一年通して月の匂いが感じられるのは秋だけだから、レアな感じがして嫌いじゃない。
あ、あと秋は木の実とか硬い食べ物の匂いがする!」
「…最後のやつはマイキーの食い意地じゃね?」
「俺もそう思った。」
「違うし!
…最後冬な!
冬は1番わかりやすいと思うんだけどな〜
冬は水の匂いがする。」
「は?水?」
「そ、一年通してちゃんとどこにでも存在してるのに影が薄い水。
その水が唯一自己主張してくる季節。
1番澄んでて、混じりっけの無い匂い。」