第2章 Chance
まるで水の中にいるみたい。
ゆらゆらと心地よく身体が揺れ、酷く安心して身を任せる。
ずっとここに居たくなるような、そんな感じがして、目の前の暖かくて安心する匂いのなにかをぎゅっと握りしめる。
「ん?伊織起きた?」
『…?』
声が、聞こえた気がした。
もう、何年も聞いていないはずの、貴方の声が、聞こえた気がした。
いや…きっと気のせい。
それより、私はまだここから離れたくない。
そう思ってまたその温もりを抱く力を強める。
「もー!起きてるから自分で歩いてよ〜!」
「お前それ特大ブーメランなのわかってんのか?」
『…ぇ?、、、、、万次郎…?』
癖があって、でも柔らかい金髪の髪の毛。
お日様色の貴方の髪の毛を結うのが大好きだった。
目の前の人が振り返ると、ずっと会いたかった貴方の優しい瞳が私を写す。
「ん?何?まだ夢見てんの?
…って、、、え?」
「伊織?なんで泣いてんだ?」
『っ…あっ!』
低くて、安心する声。
労る様な視線と共に私の顔を覗き込む人。
『けん、ちゃ…!』
「…伊織、大丈夫?
怖い夢みたの?」
「あーあー、そんなこするな。
目ぇ腫れるぞ。」
滲む視界じゃなくて、2人の姿をはっきり見たくて、ゴシゴシと目を擦って涙を拭く。
それでも次から次へと溢れる涙は止まることなく私の視界を滲ませる。
「伊織、大丈夫、俺たちちゃんとここにいるよ。」
「っうおっ!」
『あぁっ、、、っ、まん、じろ、、けんちゃん、、!』
「…大丈夫大丈夫。
伊織置いてどこにもいかないから。」
「はぁ…ったく、、、お前もマイキーもいつまで経ってもガキだなぁ。」
地面にゆっくりと降ろされると、私は堪らず2人に抱きついた。
万次郎の綺麗な手が私の背中をさすり、けんちゃんの大きな手が私の頭を撫でる。
その感触がただただ嬉しくて、私は声が枯れるまで泣いた。