第10章 Betrayal

「…伊織、」

『なに？』













東卍の特攻服を風に乗せながら、万次郎は私を呼ぶ

…私はゆっくりと万次郎の方へ顔を向けると、彼は前を見たまま言葉を紡ぐ












「…タケミっちにはさ、腹くくったって言ったけど…俺、やっぱり出来ねぇ。」

『…』

「俺は場地を殴れない。」

『うん、』

「アイツとは戦えねぇ…」

『…わかってるよ』














わかってる

万次郎がまだ覚悟を決めきれていないことくらい

どれだけ圭くんのことを大切に思っているかくらい

全部、わかってる














「…アイツが居ないと俺はダメだ。
どうしてもアイツに戻ってきてほしい。
…アイツとは戦いたくない。」

『…』

「…どうしたらいいかな…？」












万次郎は下を向いて小さく、そう呟く

まるで消えてしまいそうなくらいの声で













『…それでいいと思うよ。』

「…」

『だって、それが万次郎だもの。』

「でも…東卍の奴らはもうやる気だ。
芭流覇羅だって、、、もう止められねぇよ。」

『止めないわ。
戦うのは芭流覇羅、圭くんじゃない。』

「…」


『…万次郎、あなたは確かに東卍の総長。でもね、それ以前にあなたは万次郎なの。
無敵だと恐れられてる癖に、友達を大切に想えて、裏切ったからと圭くんを簡単に切り捨てることができない甘さもある万次郎、』

「…」

『…でもね、そんなあなただから私たちはついていくの。
そんな万次郎だから、あなたをみんな慕って、東卍の名を背負ってる。
…だから、万次郎の決めることに絶対みんなはついてきてくれるわ。
それだけの関係を私たちは今まで築いてきた。
…そうでしょう？』













時には私たちの後ろで最後の砦として構える万次郎

時には最前線で私たちを率いる万次郎


そんな彼が少しくらい自分勝手になっても、きっとみんな着いてくる




だから大丈夫



安心してみんなに話してみて














「…俺、ガキになってもいいと思う？」

『もちろん。
それだけで見損なう訳ない。』

「…そっか
…ありがとう伊織。」

『いいえ』








そういうと私たちは2人で向き合って笑った