第10章 Betrayal
「そっか…」
『ごめんね、
…あんまり上手に言葉にできなかった。』
「ううん、そんなことない。
なんとなくわかる…兄貴はそんな人だった。」
万次郎はバイクを撫でながらそう言うと、その手を握りしめた
そして髪で自分の表情を私から隠すように下を向く
「…」
『…』
「…伊織は、」
『なに?』
「伊織は、兄貴のこと、好きだったろ?」
『…大好きだったよ。』
「…それなのに、何で一虎のことを許せる…?」
『…』
「…俺はまだ許せねえ…それに、兄貴だけじゃない。
俺から場地まで奪うなら…俺は本気でアイツを殺してしまう。」
…本当に、自分のことはどこまでもわかってるんだ
実際未来はそうなってる
万次郎はカズくんを殺してしまっている
「…なぁ、伊織。
どうやったらお前みたいになれる…?
時間が解決するとかじゃねぇ。俺はきっと、一虎を一生許せないままだ。
どうしてお前は、、、兄貴が死んだ時、あんな風に思えた?」
『…』
「…教えてくれ…」
万次郎は苦しそうにそう絞り出す
あんな風に、というのはあの日みんなに、万次郎誓った約束のことだろう
…私は、
『…許す許さないじゃない』
「…」
『…あの時、私はただ悲しかった。
悲しくて悲しくて、、、そして悔しかった。』
「…」
『…今でもそう。
真兄を失った悲しみ、
それと、もう、何も考えずに7人で過ごした日々が来ないんだって悲しみ
それが胸の奥にずっとある。』
「…」
『…私の中にあるのはずっと、ただそれだけ。
それだけだからだよ、』
私はそれだけ言うと、万次郎の特攻服の中から出て、真兄のバイクを優しく撫でた
後ろで万次郎がどんな表情をしていたかは知らない
ただ、私の視界に広がるのは、光を失った暗い夜の海だけだった