第1章 Blanc
「…伊織さん、場地さん、最後に変なこと言ってたんです。」
『?』
「ずっとその意味がわからなくて、何かの隠語かな、とか、場地さんに限ってそんなことないかな、とか、色々考えてたんですけど、やっとわかりました。」
『…』
「…場地さん、棺桶の中に方位磁石入れてくれって言ったんです。
それと、お袋に仏壇は東向きにしろって言っといてくれって。」
『っ、それって。』
「そうです。
伊織さんに毎日話しかけるためですよ、きっと。
どっち向きにいるかいつもわかるようにですよ。」
『…そんな、圭くん、、、』
本当に、圭くんがどれほど私たちの事を考えていてくれたのか。
そんな彼を置いて行ってしまったことに胸が痛くて堪らなくなる。
「伊織さん、俺がこんなこと言うのもなんですけど、、、
今の東卍は本当に危険です。
幹部勢がほとんど入れ替わってて、昔のマイキーくんの知り合いっつっても話が通じるとも思えない。
なんなら、マイキーくんを助けようとしてると知った時点で殺される可能性も十二分にある。」
『うん。』
「だから、いくら場地さんの言葉があるとはいえ、正直、東卍のことに首を突っ込むのはお勧めしません。
というより、絶対にやめた方がいい。」
『…』
「場地さんだって、ここまでの事態になるとは思ってなかったはずです。
その上で、伊織さんを危険に巻き込むような真似をさせたいとは思ってないはずです。
だから、」
『千冬くん。』
テーブルを見ながら話していた千冬くんが顔を上げる。
彼が私の目を見て、息を呑んだのがわかった。
『危険でも、死ぬかも知れなくても、私は行くよ。』
「っ、」
『だって、私、万次郎に会うために帰ってきたんだもの。
このままじゃ終われない。
会わなきゃ、万次郎に。』
「伊織さん…」
『ねぇ、千冬くん。
貴方のいう通り、相当危険な橋を渡ることになる。
それでも、千冬くんは私に力を貸してくれる?』
私がそう言うと、千冬くんは目に溜まっていた雫をゴシゴシと拭くと、はっきりした声で言った。
「はい!勿論!!」
『…ありがとう。』