第9章 Check
俺は何を浮かれていたんだ…
ナオトから連れて来て貰ったヒナのマンション
その階段を降りながら自分の勘違いに唇を噛み締める
俺にとってはさっきでも、ヒナにとっては12年前
しかも自分が振った男だぞ、俺は
そんな奴が今更目の前に現れたってどうしろってんだよ
12年、恋人だっていただろうし、今俺たちは26
その…け、結婚だってしてるかもしれない
…それなのに俺は、、、俺は前と何も変わっていない
前と同じボロアパートに住み、仕事だって前と同じDVDショップのアルバイト
…なんて情けない
ドン
「きゃっ」
「あ、すみませ…っ!」
マンションの出口
前を見ていなかった俺は女性とぶつかった
思わず顔を上げる
え…幻覚…?
目の前の彼女は柔らかな茶髪で、
口元にはほくろがあって
俺よりも何倍も落ち着いた瞳の色
…ヒナだ
12年後の君の顔なんて知らない
もしかしたら髪だって染めているかもしれない
顔だって前とは違うかもしれない
実際目の前の君は12年前よりも大人びていてずっと綺麗だ
背も少し伸び、手足もすらりとしていて昔とは違う
でも、俺には分かった
俺の目には何も変わらないように見えた
あの頃の、12年前と何ら変わらない
俺の大好きな瞳がそこにはあった
あれ、視界が…
「…タケミチ君はいつも急に来るね」
君の優しい声が俺の鼓膜と胸を震わせ、さっきまで考えていたことなんか全部吹っ飛んだ
…君が生きていてくれて嬉しい
…会いたかった