第8章 Surprise
「…」
伊織が横で寝ちまって、何時間経っただろう
「…」
俺は相変わらず寝付けないでいる
腹の傷はまだ少し痛む上、じっとしてなきゃいけないストレスで入院1日目からだいぶキチィ
隣のベッドであどけなく眠る伊織の顔を眺め、月に視線を移す
「…あの時、本当に声が聞こえたんだ」
気がついたら暗闇の中にいた
そこではなんだか妙に頭が冴えていて、ああ、俺キヨマサに刺されてやっぱり死んだんだなって思った
こんな風に死ぬのなら、今日どうしても照れて言えなかったエマの浴衣の感想、ちゃんと言っとけば良かったと、そう思った
…本当に、綺麗だった
伊織が選んでくれたのだと嬉しそうにはしゃぐエマ
そして伊織にも浴衣をプレゼントするんだと言っていたエマ
祭りに夢中ではしゃぐエマ
どのエマもかわいくて仕方なかった
でも結局、その中のひとつも言葉に出来なくて俺はここで1人死んでいる
伊織もマイキーも残して、
一昨日河原であんなに俺が必要だと言ってくれた2人も、エマも残して、俺は1人ここにいる
ただ何もなくて、馬鹿みたいにぼーっと突っ立っていた
そしたら突然地面が揺れたんだ
立っていられないくらい、何度も何度も
そして伊織、お前の声が聞こえた
帰ってこいって、いくなって、死んだら許さないって、
そう言いながら、何度も俺の名前を呼ぶんだ
しかも終いには戻って来なかったら殺すって…本当物騒だな
でも、ごめんな
帰り方、わかんねぇんだよ
俺だって帰りたい
マイキーとの約束も守れてねぇ
エマにも告白できてねぇ
伊織にも謝れてねぇ
「…戻りてぇな」
そう呟くと、立っていたところに穴が空いて、俺は落ちて行ったんだ
…やっぱり無理か
ドン!
「っ!」
底にたどり着いて、思わず目を開けた
そこは白くて眩しくて、、、一瞬何も見えなかった