第7章 Incident
『…来ないね』
「ああ」
『…本当にここ?』
「メビウスボコったとこってここだよな?」
『それは合ってるけど…』
6時を少し過ぎた頃
廃工場の中は暗くて、月明かりだけが頼り
私と万次郎はドラム缶の上に座ってペーくんを待っていた
タン…タンタン
ザー……
『雨…』
急に空が暗くなり、雨が降り始める
廃工場の屋根のトタンを雨粒が打ちつけ、その音がなかに響いてくる
「伊織、手貸して。」
『うん?』
「月隠れて見えないから…なんかあってもすぐ気づけるように」
確かに
穴だらけの壁から微量に漏れる光だけが視界の支えになり、万次郎の表情もわからない
私は万次郎の方へと手を差し出すと、暖かくて私の手よりも大きい手に包まれた
『万次郎の手、あったかい』
「伊織の手は冷たい。
寒い?」
『ううん。寒くはないから大丈夫。
…ペーくん、遅いね。』
「うん」
彼を待っている間にも雨足は強くなる
…けんちゃんの方も連絡ないから大丈夫なんだろうけど、、、この間に一応タケミっちに連絡して確認しておくか
『ちょっとタケミっちに連絡してみる。
けんちゃんと一緒にいるはずだから』
「うん。」
万次郎にそう言ってケータイを開く
電話帳からタケミっちの名前を探してコールした