第1章 Blanc
何分か何時間か、
わからないけど、夕日が傾いて仏壇の隣にある窓から差し込む。
そろそろ出て行かないと、おばさんにも迷惑をかけてしまう。
そんな思考がやっと頭に浮かび、ふらふらと歩きながら襖に手をかけた、
スッ
『…おばさん、ごめんなさい…長居しちゃって、、、』
「…いいのよ。
ありがとうね、10年経ってもそんなに貴方のような子に想ってもらえる。あの子も隅に置けないわね。」
『…』
「伊織ちゃん、今朝帰ったばかりだって言ってたわよね?」
『はい。』
「それじゃ、今晩、食べて行かない?」
『いえ、、、これ以上長居するわけには…』
「そんなことは気にしないで。
…久々にね、あの子のことを思い出してたの。
そしたらつい話し相手が欲しくなっちゃって。」
『…』
「預かったものもあるし、ね?」
『…わかりました。
いただきます。』
私は腫れた目を擦っておばさんの隣に立つ。
お皿の用意をして、2人で向かい合ってテーブルに着くと、嫌でも昔、3人で食卓に着いたことを思い出してしまい、また視界が滲む。
「ずっと向こうにいたなら、和食は久々かしら?」
『はい。
ある程度なら向こうでも作れますけど、、、やっぱり本場のものとは何か違ってて…』
そう言いながら味噌汁を出してくれるおばさん。
その顔は寂しさの中にどこか嬉しそうな色が見える。
「じゃあ、食べましょうか。」
『いただきます。』
お味噌汁にご飯、ほうれん草の胡麻和えに鯖の竜田揚げ。
それから、少しの焼きそば。
久々に食べる本場の日本食がじんわりと沁みる。
別のお皿に盛られた焼きそばを食べると、少しの違和感を感じる。
『…これって、、、』
「…そう、ペヤング。
あの子、アレ馬鹿みたいにいつも食べてたでしょう?」
『…っ、はい。』
「千冬くんが毎日のように家に来て、2人でひとつのペヤングを半分コするの。
今日は私と伊織ちゃんと半分コね。」
『っ!』
仏壇の方を見ると、ペヤングの容器に半分だけ残されたやきそばがあった。