第5章 Cause
「…もう、大丈夫」
『そう』
しばらくすると、柚葉は私の腕の中から出て向かい側に座る
…体に巻かれた包帯が痛々しい
「…偶に、おかしくなりそうになる」
『…』
「どうやっても敵わないのに、どうにかして対抗して、全てから解放されたくて、、、」
柚葉は黒龍の集金なんかもやってると以前言っていた
そういう役目からも逃げたいんだろう
「私が私でなくなりそうな時があって怖い…」
『…柚葉』
「…でも、そんな時にね、八戒の顔を見たら、少し落ち着くの。
まだ私には八戒がいて、八戒を守るっていう役目が残ってるって、、、
そう、思うと自分が安定する。」
八戒の身体は柚葉がいつも守ってる
…柚葉の身体を守ってはくれる人は誰もいない
でも、柚葉の心は八戒が守ってるんだ
そして、反対に、身体は柚葉が守るけれど、八戒の心は誰も守ってくれない
彼はただ、目の前で傷つく姉を見るだけで知らないうちに中から壊れていっている
…不完全な共依存
崩壊するのも時間の問題
『…柚葉、まだ怖い?
まだ、私の手を取る気にはなれない?』
「…」
『逃げられるんだよ。
解放される道はちゃんとあるんだよ。
それでも、まだ耐える道を選ぶの?』
確かに、黒龍は強い
でも東卍なら勝てる
そして彼らも、2人のために力を振るえる
それだけの優しさが彼らにはある
それに、東卍が出てこなくったって、2人を匿うことくらい私だけでもできる
黒龍を潰すのは無理でも、黒龍の脅威が無くなるまで2人の面倒を見るくらい別に訳ない
「……ごめん」
『柚葉…』
でも、彼女は首を縦には決して振らない
ただただ怖いんだ
誰がなんと言おうと、幼い頃から植え付けられてきた兄への恐怖が無くなることはない