第1章 Blanc
「ごめんなさいね〜大したもの無くて。」
『いえいえ、お構いなく。』
「それにしても綺麗になったわねぇ。
今は何をしてるの?」
『今は医者をしてます。
丁度今朝アメリカから帰ってきて…』
「まぁ!お医者さん!!すごいわ!
それにアメリカに行ってたのね。圭介に何度聞いても「めちゃくちゃ遠いとこ」しか言わなくて…」
圭くん、お母さんにも言わなかったんだ。
…それにしても、なんだかモノが減ったな。
圭くんも25だし、一人暮らしでも始めたのかもしれない。
『圭くんにだけは行き先言ってたんです。
誰にも言わないでって約束してもらって。』
「そうだったのね。」
『あの、それで圭くんは今どちらに?
一人暮らししてるんですか?』
「え?」
『最後に空港で別れた時、日本に帰ってきたら最初に圭くんの所に行くって約束したんです。』
服越しにお守りに触れながらそう聞く。
淹れていただいた紅茶を一口飲んで、おばさんの方を見ると、目を見開いたまま固まっていた。
『?おばさん?』
おばさんは手に持っていたティーカップを置き、私から目を逸らすことなく言った。
「伊織ちゃん、知らないの?」
『え?』
「圭介は、亡くなったわ」
『は?』
なくなった?
頭を鈍器で殴られたような気がした。