第1章 Blanc
【場地】と書かれたプレートにひとつ息をつく。
よかった引っ越してなかったようだ。
と、インターホンを鳴らそうと伸ばした自分の手がが震えているのに気がつく。
やっぱり緊張する…
10年って大きい…
『ふぅ…』
よし!
ピンポーン
『…』
居ない、のかな。
そりゃそうか、アポ無しで来て絶対いるわけなんかない。
あの一回鳴らして出なかったら一度帰って明日また出直そう。
そう思ってもう一度ボタンに指を近づける。
「は〜い!ごめんなさいね!遅くなっちゃって!!
どちら様?」
『わっ!』
インターホンから急に声が聞こえて思わずびくりと肩を震わせる。
この声…少し枯れているけどおばさんの声だ。
『あ、急に訪ねてきて申し訳ありません。
高宮伊織です。
あの、10年ほど前に何度かお邪魔したのですが…覚えてない、ですよね、、、すみません。』
そう言っているうちになんだか恥ずかしくなって下を向いてしまう。
10年前のことなんて覚えてなくて当然だ。
私自身そんなに鮮明に覚え居られないじゃないか。
「…伊織ちゃん?」
『え、』
「本当に伊織ちゃんなの!?」
『は、はい…』
「…来てくれるなんて、、、もう会えないんじゃないかって思ってた…」
『???』
「あ、ごめんなさいね。すぐ開けるわ!」
『あ、ありがとうございます。』
まさか、覚えていてくれたなんて。
嬉しくて思わず頬が緩む。
それにしてもおばさん、なんだか相当感動してたな。
圭くんの家には勉強を教えに結構行ったけど、おばさんに会ったのなんて数え切れる程だし、、、
どうしたんだろ?
「伊織ちゃん!」
『!おばさん、お久しぶりです。
急に押しかけてしまってすみません。』
「いいのよ!そんなこと。
さ、入って!」
『お邪魔します。』