第14章 【第十三訓】ベルトコンベアに挟まれた工場長の話
「何いまの! 何いまの! 何いまの!」
○○は最後尾を走りながら、新八の背中に叫んだ。
座っていたため、他の三人よりも走り出しが遅かった。
「みっ、みっ、みっ、見ちゃった!」
新八は走りながら、呂律の回らない声で叫ぶ。
土方と銀時の背後に、逆立ちしたような女の顔が見えていた。
長い髪の毛が床に向かって垂れていた。
必死に走る四人を追うように、銀時と土方も懸命に走って来た。
その背中に女の顔が乗っている。
納屋へ身を隠した○○達の耳に、銀時と土方の叫び声が届いた。
「オイ、○○、さっきの化けモンと戦って来い」
「なんで私が!」
「お前、屯所の自縛霊だろィ。自分の縄張り踏みにじられて、悔しくねーのか?」
かつて近藤は、屯所を訪れた上官に○○は自縛霊だと説明した。
そこに居合わせていた沖田はその話を記憶していた。
「何の話だ! 丸投げするな!」
ただし、○○は覚えていない。
「オイ、誰か明かり持ってねーかィ?」
相変わらずの能天気さを醸し出す沖田。
頭を抱える新八に、銀時の身を案じている神楽。
大幣にありもしない念力を込める○○。
四種四様の人間が納められた納屋に、不穏な影は忍び寄る。
「実は前に土方さんを亡き者にするため、下法で妖魔を呼び出そうとしたことがあったんでィ」
沖田の告白に神楽が声を荒げて立ち上がる。
ガタガタと扉が揺れる音がした。
神楽と沖田はいがみ合っているため気づいていない。
○○と新八は顔を合わせ、示し合わせたように扉に目を向けた。
そこには隙間が開いていた。
見えたのは覗いている女の目。
「ぎゃああああああああああ!」
新八の叫び声に、沖田と神楽も扉へと目を向ける。
新八は沖田と神楽の頭を地面に押さえ込み、ひたすら頭を下げた。
「たたた退散!」
○○は大幣を振った。
「おお退散!! 太田胃……ん?」
○○は手を止めた。
視線の先から、女の姿が消えていた。