第14章 【第十三訓】ベルトコンベアに挟まれた工場長の話
「アブダカダブラーちりぬるをわかー!」
紙垂で山崎の顔を祓いながら、○○はあいやーあいやーと言い続ける。
近藤、土方、沖田の三人は、○○のお祓いを黙って見ていた。
だが、この連中が素直に黙っていること程、不気味なものはない。
「オイ、見てるぞ! 怪しげな目で見てるぞ!」
銀時に肩を突かれても、○○はお祓いをやめない。
もはやその行為が楽しくなっている。
「アンタらのせいでおかしく見えたんでしょーが!」
「何言ってるアルか! 私の降霊術は完璧ネ!」
「工場長降霊させといて、何が完璧だ!」
「ちょっとアンタら! 何してんですか!」
「うるせー! このヒゲ尼!」
「尼って何ですか! 女じゃないですか!」
「アンタらも除霊してやろーか! アンチョビパエリアエスカルゴー!」
「どこが除霊呪文? レストランでの注文ですか! 欧米か! コノヤロー!」
山崎は畳の上へと転がされ、もはや誰の目にも映っていない。
「仕事中ですよ!!」
熾烈を極めた戦いは、各々の変装をことごとく剥ぎ取った。
神楽の手刀が、○○の頭から市女笠ごと垂衣を落下させる。
近藤、土方、沖田の視線が、隠すもののない○○の顔に注がれた。
「あっ!? ○○!?」
近藤の叫び声で銀時達の動きも止まる。
なぜ、近藤の口から○○の名前が出るのか。
○○は目をしばたたかせると、きょろきょろと室内を見回した。
「誰かと思えば、真選組のみなさんじゃないですか。ここ、屯所だったんですね。いや、見えてなかった、うん」
「うん、じゃねーよ! 今までどこに行ってたんだ! お兄さん、心配で心配でもう……!」
軽く目頭に涙を湛えながら、近藤は○○の肩を掴んで揺さぶった。
「だから、誰がお兄さん?」
○○は面倒臭そうに顔を逸らして呟いた。
「近藤さん、土方さん、この人達はどうします?」
沖田が親指で示した先には馴染みのある三つの顔。
揉み合った格好のまま三人は静止していた。
「あ、万事屋!?」
「てめーら!」
近藤と土方は○○ばかりに気を取られていたため、三人の素顔を見ていなかった。
「こいつらの処遇は俺に任せて下せェ」
沖田は口角を吊り上げた。