第14章 【第十三訓】ベルトコンベアに挟まれた工場長の話
「なァにが、ガッポリボロ儲けだ」
暑い中、顔中にグルグル巻かれた包帯の中から文句が聞こえる。
頭には笠を被り、服装は神職のもの。
神道とはおよそ不釣合いな言葉だが、中身が銀時ならばその声は納得のいく気だるさだ。
「……ボロ儲けじゃないもん、丸儲けって言ったんだもん」
三日前の笑顔が嘘のように、○○の声からも覇気が抜けている。
連想ゲームで○○が思いついたのは『祈祷師になって依頼を受けよう!』というものだった。
夏のこの時期だからこそ、幽霊関係の依頼ならとの案だったが結果は惨敗。
あれから三日。依頼は一件もない。
「金が入らなきゃ、どっちも変わりゃしねーんだよ。ったく、このクソ暑い中、こんな格好してアホ丸出しじゃねーか」
「やめて下さい、銀さん。銀さんだって、最初は乗り気だったじゃないですか」
頭から布を巻いた新八が止めに入る。
いつものメガネではなく、付けヒゲ仕様の瓶底鼻メガネをかけている。
――おっしゃー! 夏だ、お化けだ、拝み屋だ作戦! 発動だ!
――おー!!
万事屋四人、あの時ほど息の揃ったことはかつてなかったのではないだろうか。
それが、依頼ゼロで終わった初日の夜には早くもすれ違いの兆しが見えていた。
「フンだ。いいよ、もし今日も依頼がなかったら、私がちょいちょいっと仕掛けて一幽霊騒動起こすから」
「○○さん、詐欺はちょっと……」
新八は頬を引きつらせた。
付けヒゲが不自然に鼻元に残っている。
「元々拝み屋なんざ出来る力ねーんだ。ちょっとした詐欺の上塗りだろ」
「認めたよ。認めちゃったよ、この人!」
「そうだよ。プロレスみたいなもんだよ、エンターテインメントだよ。やらせでも人の心を掴めばいいんだよ」
麗しい巫女姿とは裏腹に、○○は拳を握って力説した。
その表情は虫の垂衣に覆われているのでわからない。