第63章 【第六十二訓】スキーに連れて来た将軍様はお帰り遊ばしたの話
「ろくでもない無能の甲斐性なしよりも、コイツが頼りになったってわけか」
屈辱的だが、今この時に関しては、この男の方が○○の役に立っている。
――そんなの決まってるじゃない
そんな言葉が返って来ると思ったが、○○は黙ったままだった。
○○には憎まれ口を叩く余裕はなかった。
「なんだ? 俺が死んだと思って腰でも抜けたか?」
「当たり前でしょ!!」
土方は目を丸くした。
軽口に対する○○の反応は、土方にとって予想外のものだった。
「本当に死んだかと思った」
土方が雪崩に巻き込まれたと知った時、山崎が殺害されたと聞いた時の気持ちが蘇った。
二度とあんな悲しみは味わいたくない。
「そう、か……」
○○は大きく息を吐いた。
どっと疲れが押し寄せた。
「銀さん、行こう。夜までに安全な場所見つけないと」
「それなら心配いらねーよ。そこに正規ルート見つけて目印つけてある」
「本当に!? やっぱり銀さん、頼りにな……って目印ってコレ? 何これ」
「近くで倒れてたロン毛から髪の束引っこ抜いてバラ撒いといた」
「簡単に風で吹き飛びそうだよ、こんな目印!!」
騒がしく立ち去る二人の背中を、土方は座り込んだまま見送った。