第13章 【第十二訓】ビーチの侍の話
波打ち際で、○○はカニと戯れている。
海から声が聞こえ顔を上げると、銀時が浮き輪に乗って漂っているのが見えた。
その後ろを新八が悠々と遊泳している。
そのさらに沖には、エイリアンのおとりにしようと海の家の店主が十字架に括りつけられ、立たされている。
「いつの間に! 私も泳ぐ!」
エイリアンが出没するために海は遊泳禁止になっている。
そのために○○は波打ち際で遊んでいたが、二人が入っているなら話は別だ。
○○が立ち上がると、カニは横歩きで素早く立ち去った。
Tシャツと短パンを脱ぎ捨て、タンクトップとビキニの出で立ちとなり、そのまま海へと駆け込んだ。
「イヤッホーイ!!」
その様を見て長谷川が、
「ケツは安産型だな」
と、グラサン越しに注視していたことを○○は知らない。
○○はクロールの体勢を取った。
新八同様、クロールで大海原を泳ぎまわろうと、両手を揃えて前に出した。
前に出したまま固まった。
「……アレ? 私、泳げない」
泳ぎ方がわからなかった。
剣術は記憶を失っても出来ていた。
ということは、記憶をなくす前から○○は泳げなかったのだろう。
「銀さァァん!!」
「みんなァァ! 逃げてェェ! 病気だ! この娘、病気!」
銀時から浮き輪を奪おうと呼びつけようとした○○の声は、長谷川の声に掻き消された。
長谷川に目を向けると、隣で神楽が大きな岩を担いでいた。
今にも海に投げ込まんとしている。
「ちょっ、神楽ちゃん、何してんの!」
「姉ちゃんも止めんの手伝……ん?」
神楽を止めながらも、長谷川は海の方へと目を凝らしている。
長谷川の視線をたどると、十字に括りつけられた海の家の店主の背後にサメの背びれのようなものが、高速で近づいているのが見えた。