第13章 【第十二訓】ビーチの侍の話
「イヤッホーイ!!」
○○は両手を振り上げ、奇声を発する。
目の前には広大な海。頭上には燦々と照りつける太陽と、真綿のように白い雲が浮かぶ青空。
真夏のビーチは清々しい。
一人盛り上がる○○の横には、銀時と新八が座っている。
その左で寝転がっているのは長谷川泰三。
長谷川はかつて万事屋に依頼をしたことがあるらしく、それ以来の付き合いなのだとか。
元幕府高官。だが、今は無職のマダオだと聞いた。
三人とも同じ『ビーチの侍』と書かれた、白地のシャツを着ている。
長谷川の左後ろでは、神楽が砂浜に定春を埋めて遊んでいた。
「よくもまァ、そんな元気にはしゃげるこった」
銀時は溜め息を吐いた。
――エイリアンの首に懸賞金がかけられた
その情報を得て、万事屋一行と長谷川は遥々海へとやって来た。
エイリアンに懸賞金をかけたのはビーチで海の家を経営するおじさんだった。
懸賞金の話は酒の席で冗談半分に言ったという無責任なものだった。
結果、褒賞として与えられたのが『ビーチの侍』Tシャツ。
「海なんて初めて!」
「○○さん、海のない所で育ったんですか」
新八は○○を見上げて問いかけた。
○○が見下ろすと、新八と視線が合う。
一瞬だけ表情を固めたあと、○○はニコリと笑った。
釣られて新八もニコリと笑う。途端に、○○は顔を歪めた。
「そんなん知るか。そこの天パに聞け」
言い残すと、○○は海へと駆けて行った。
「そうでした……」
○○が記憶喪失だと、最近忘れかけている。
「いい脚してるよな、あの姉ちゃん」
長谷川は顎をさすりながら○○を見つめる。
新調した短パンからは、細白い脚が覗いている。
「ツラも上々、胸も上々」
○○は波打ち際でしゃがみ、貝殻を見つけていた。
「そーかァ? 顔はフツーだし、胸ももっとねーとダメだろ」
「現実を見ろって、銀サン。世の中には男が普通だと思うレベルもあんまいねーんだよ」
長谷川は青空に目を向けて首を振る。
「それに胸はあれくらいがちょうどいいんだよ。ガキ生みゃデカくなるし、あんまデカいと年取った時に垂れるぞ」
炎天下の蒸し暑さの中、おやじ談義は白熱する。