第9章 【第八訓】昔の武勇伝は三割増で話の話
三丁目の工場裏。
昔の仲間がキャサリンに伝えていた場所に四人の姿があった。新八と神楽と○○。そしてお登勢。
新八は隣で仏頂面を浮かべる○○に視線を送った。
「……○○さん、そんなに嫌だったんですか?」
表情を硬くしている○○の様子を、新八は嫌がっているのかと誤解した。
新八はキャサリンのことが放っておけず、○○と神楽、お登勢を説得した。
時刻は丑の刻。
若干の恐怖はあったが、○○は同行した。
傍に新八や神楽がいるのなら、自身の身に何かあっても助けはある。
しかし、危惧していたような体調の変化は起こらず、こうして無事でいる。
「いや、もう。何が何だか、わからなくて」
自分は、夜は外に出られないのではないか。
立てた仮説は、あっという間に否定された。
「来たヨ」
全身黒尽くめの、キャサリンの昔の仲間が三人、足音を立てて現れた。
奴等が現れてすぐ、キャサリンの姿も見えた。
「上等だ、このクソアマァ!!」
キャサリンは仲間に戻ることは選ばなかった。
お登勢に手出しさせないため、ひたすら頭を下げる。
キャサリンは自分を犠牲にすることを選んだ。
殴られても蹴られても、耐えていた。
男はキャサリンの猫耳を切り落とすと息巻いている。そこまでは見過ごせない。
止めに入ろうと思った○○よりも先に、土管の中から現れた銀髪の男が先に奴等を成敗した。
人様に胸を張れるような人生は送っていない。銀時の言葉に、○○は耳を傾ける。
「私も生まれ変わろうかな」
○○は空を見上げた。
真っ暗な空。星の輝きも、月の光も見えない闇の世界。
盗人だった過去を捨て、キャサリンは新しい人生を歩み始めた。
「今、私はここにいる。それで充分です」
○○の知る自分は、今の○○だけ。今の自分を続けていけばいい。
過去のしがらみがない分、○○の方がずっと生まれ変われやすい。
○○の言葉を、お登勢は黙って聞いていた。