第9章 【第八訓】昔の武勇伝は三割増で話の話
工場裏に四人の姿はあった。
新八と神楽と○○。そしてお登勢。
新八はキャサリンが放っておけず、三人を説得した。
「一件落着ですね」
キャサリンを悪の道へと引き戻そうとしていた男達は、銀時の手で倒された。
「そうだね」
○○は空を見上げた。
時刻は丑の刻。星の輝きも、月の光も見えない。
○○自身は落着どころか混迷していた。
新八や神楽がいるから何かあっても助けはあると思い同行したが、何も起こらなかった。
ならば、記憶のない二夜はなんだったのか。
「もう用は済んだだろ。さっさと帰るよ」
お登勢が立ち上がる。
○○は立ち上がりながら、壁の向こうの銀髪に目を向けた。
過去を語らない男。
傍らには、過去から抜け出そうともがく女が跪いている。
過去を思い出したくない男。
過去を捨てたい女。
過去を知りたい、○○。
それぞれ違う形で、過去に囚われている三人。
そのうち二人は、過去を抱えたまま前を向いて歩き始めている。
何度も故郷を思い描いていた。
写真の母。顔のわからない父。友人。
その友人を名乗る男に、天涯孤独だと聞かされた。
故郷で待つ人は、いないのかもしれない。
少なくとも、○○を捜している者はいない。
「帰りましょう」
今いる場所に。
「言っとくけど、今度滞納したらすぐに出てってもらうよ」
過去を気にせず、今の生き様を見てくれる人。
お登勢の指先から立ち上る煙が、ゆっくりと宙に溶けていく。
過去は知りたい。けれど、どこか心は軽くなっている。
過去を持たない一人もまた、前へ進むことを選ぼうとしていた。