第9章 【第八訓】昔の武勇伝は三割増で話の話
お登勢の口から立ち昇る煙を目で追う。
煙が消えた時、○○は口を開いた。
「銀さんは、私の古い知り合いらしいので」
「らしい?」
「私は記憶喪失なので覚えてないんですけど。銀さんは私のことを知っていましたから、間違いなく」
手に持った酒瓶を裏返し、賞味期限を見る。
「唯一の記憶の手がかりなのに、銀さんちっとも昔のこと話してくれなくて。お登勢さんは何か聞いてませんか。銀さんの故郷とか」
喋っている内容が嘘に思える程、その表情には深刻さのかけらもない。
お登勢も軽く聞いている。
「故郷ねェ。聞いたことないね。こんな性分なんでね、細かいことは気にしないんだよ。アイツがどこの誰なのか。私も聞いてみたいもんさね」
やはり、記憶の手がかりは銀時本人のみらしい。
「アンタはどうなんだい」
「え?」
「アンタも細かいこと気にするようには見えないけど。アンタは今ここにいる。それで充分なんじゃないのかい」
○○は真選組での暮らしを思い出した。
写真を見るたびに、故郷を思い描いていた。
故郷と、故郷にいるであろう母や、顔も知らない父、友人。
だが、自分は天涯孤独だと聞かされてから、故郷を想う回数は確実に減っている。
「アイツの昔のことは知らないけどね、あのズボラが頑なに喋らないなら、余程言いたくないんだろうよ」
○○は言葉に詰まった。