第9章 【第八訓】昔の武勇伝は三割増で話の話
「家賃払ってないなんて、信じられない」
「無賃で居候してる奴が何言ってやがる」
「アンタみたいに他人に迷惑かけてそうな奴には、同じように迷惑かけても問題ないでしょ」
「何だと!」
「銀ちゃん押さないでヨ! 潰れるアル!」
「ていうか、こんなに騒いでいたら外に丸聞こえですよ」
玄関から見て左から、新八、銀時、神楽、○○の順番で仲良く腹這いになって並んでいる。
ソファとソファに挟まれた、小さなテーブルのその下で。
外からは「坂田サーン、坂田サーン」と若干ズレたイントネーションで銀時を呼ぶ声が聞こえる。
「ったく、狭ェーんだよ。一人増えたせいでよォ」
「そもそも、家賃の回収に来られてテーブルの下に隠れるっていうのが間違っている気が……」
腹這いのまま頬杖をつく銀時に、ツッコミを入れる新八。
「そんなに言うならわかったよ。スペース広くすればいいんでしょ」
「うわあ!」
○○は神楽に抱きついた。
「キャハ! 起きてても抱き枕」
「キャハ! じゃねェよ! ったく、変な所だけ気ィ回しやがって、気色悪ィ!!」
「キャハ! じゃねェ、静かにしろ!」
○○、銀時、新八とキャハ! が続き、居留守を使おうとしているわりに盛大な声が響く。
「とにかく今は……」
「坂田サーン。アホノ坂田サーン」
なおも玄関前から聞こえて来る声。
「いいか、絶対動くなよ」
神妙な面持ちとは裏腹に、沈黙は続かない。
神楽がテーブルをガタガタ揺らしながら叫ぶと、続くように○○と銀時と新八も声を出す。
黙っているのが性に合わない連中には、ジッとしていることすらままならない。
そうこうしているうちに、
「静かになったな。帰ったか?」
気がつけば、外の声が消えていた。
だが、次の瞬間には背後から声がした。
「ナンカ修学旅行ミタイデドキドキスルネ」
外から聞こえていたのと同じ、片言の日本語。
「ぎゃああああああ!!」
銀時、○○、神楽、新八は四人揃って叫び声を上げていた。
「チャッチャト下リテ来イ。私カラ逃ゲラレルト思ウナヨ」
彼女の名前はキャサリン。
地球に出稼ぎに来た天人で、万事屋の下の階にある『スナックお登勢』の従業員。