第63章 【第六十二訓】スキーに連れて来た将軍様はお帰り遊ばしたの話
「ホラ見ろ」
○○は辟易する。
ああやっぱり、というのが本音だ。
桂のことだ。再び姿を現すだろうとは思っていた。
土方を帰らせるために来ないと言い張っていたが、内心では来ないわけがないと思っていた。
「幕府の犬を撒いて、再び○○殿に逢いに馳せ参――犬!?」
○○の横に土方の姿を見つけた桂は目を剝いた。
「待ち伏せとは、卑怯な!!」
「卑怯もへったくれもあるか。さっさとお縄を頂戴しろ」
雪上を猛烈な勢いで降りて来ている桂には、引き返すことも止まることも不可能だった。
「かくなるうえは!!」
桂は雪の上で前転した。
滑り降りるに従い、桂は巨大な雪玉へと変貌する。
「捕まえられるものなら、捕まえてみろ!!」
桂は得意げに喜色の笑声を上げるが、下にいる○○は顔色を失う。
「ちょっ、ふざけんな!!」
「○○殿!?」
○○達は桂が滑り落ちてくる直線上にいる。
慣れないボードを履いた状態では、よけることもままならない。
「逃げろ、○○殿!!」
「逃げられるかァァァァ!!」
巨大桂雪玉に弾き飛ばされた○○は、勢いのままに雪上を滑降した。